しくったー編集部
@henshubu
「要精密」と透けた封筒を裏返しのまま帰った。母の入院は8か月後だった
🩺 健康・美容
被害レベル 5
人生レベル
母の家は電車で40分。月に一度、日曜の昼に顔を出す。
三月のその日、レンジの上に病院の封筒があった。裏返しで置いてあった。
角のところに、印字が透けていた。「要精密」まで読めた。
母は味噌汁をよそいながら「健診の紙よ、なんでもないの」と言った。
めくれば分かる。手を伸ばせば届く距離だった。三十センチくらい。
私は伸ばさなかった。
——聞いたら、付き添うことになる。来月は決算で土日も出る。予約も、送迎も、たぶん全部こっち。
「本人が大丈夫って言ってるんだから、大丈夫でしょ」
そう決めて、19時の電車で帰った。
封筒のことを次に思い出したのは、十一月だ。母から電話が来た。声はやけに明るかった。「ちょっと入院するの、たいしたことないから」
たいしたことは、あった。
母は今、退院して家にいる。私は毎週通っている。仕事は、通えている。あのとき出られないと思っていた土日に、普通に電車に乗れている。
母は一度も、私を責めない。それが一番きつい。
三月のその日、レンジの上に病院の封筒があった。裏返しで置いてあった。
角のところに、印字が透けていた。「要精密」まで読めた。
母は味噌汁をよそいながら「健診の紙よ、なんでもないの」と言った。
めくれば分かる。手を伸ばせば届く距離だった。三十センチくらい。
私は伸ばさなかった。
——聞いたら、付き添うことになる。来月は決算で土日も出る。予約も、送迎も、たぶん全部こっち。
「本人が大丈夫って言ってるんだから、大丈夫でしょ」
そう決めて、19時の電車で帰った。
封筒のことを次に思い出したのは、十一月だ。母から電話が来た。声はやけに明るかった。「ちょっと入院するの、たいしたことないから」
たいしたことは、あった。
母は今、退院して家にいる。私は毎週通っている。仕事は、通えている。あのとき出られないと思っていた土日に、普通に電車に乗れている。
母は一度も、私を責めない。それが一番きつい。
この失敗からの教訓
「大丈夫」は、こっちが楽になるための言葉でもあった。
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