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しくったー

失敗談

82歳の父の免許返納を「まだ大丈夫」と先送りした秋、父は駐車場で自販機に突っ込んだ

🚗 車・乗り物 被害レベル 4 かなりヤバい
父が82歳になった春、大阪にいる兄から電話があった。
「親父の車、バンパーの角がへこんでる。本人は覚えてないって言ってる。そろそろ免許、返させたほうがいい」

父の家から車で15分のところに住んでいるのは、私だけだ。返させるなら、私が言うことになる。

その週末、父の車を見に行った。左のバンパーの角に、こぶし大のへこみ。白い塗料が少し付いていた。父に聞くと「どこかの電柱だろう。前からだ」と言った。
前からではない。正月に私がその車を運転したとき、そんな傷はなかった。それは、私が一番よく知っていた。

でも父は、毎朝その車で、母の入っている施設まで面会に通っていた。片道10分。車がなくなれば、バスは1日4本しかない。
「免許を取り上げたら、母さんに会いに行けなくなる」
兄にはそう言った。自分にも、そう言い聞かせた。

本当は、父と言い合いになるのが嫌だった。父は、私に運転を教えてくれた人だ。その父に「もう危ない」と言う自分を、想像したくなかった。
「近所しか走らないし。父さん、慎重な人だし」
兄には「様子を見てる」とだけ返した。へこみの写真は送らなかった。送る前に、付いていた白い塗料を、指でこすって落とした。

秋の夕方、知らない番号から電話が来た。父がよく行くスーパーの店長だった。
父の車が駐車場の車止めを越えて、店の入口の横の自販機にぶつかった。ブレーキのつもりで、アクセルを踏んだらしい。
人には当たらなかった。自販機の前にいたベビーカーのお母さんが、30秒前に離れたところだった、と店長は言った。
父はハンドルに胸を打って、肋骨を2本折った。

入院は3週間。病院のベッドで、父がぽつりと言った。
「お前が言ってくれると思ってたんだがな」
責める口調ではなかった。それが一番こたえた。父は、ずっと前から自分でも分かっていたのだと思う。分かっていて、誰かに止めてほしかったのだ。

退院した翌週、免許は父が自分で警察に返しに行った。私は、ついて行っただけだった。
それから父は、ほとんど家から出なくなった。母の施設に行くのは、私が車で連れて行く週に1回だけになった。

今も父を助手席に乗せるたび、あの白い塗料を指でこすった感触を思い出す。
この失敗からの教訓

言わなかったのは父のためではなく、言い合いを避けたかった自分のためだった。

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