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しくったー

失敗談

家族の愚痴を書く裏アカを、息子は2年間フォローしていた

📱 SNS・ネット 被害レベル 5 人生レベル
裏アカを作ったのは、息子が中学3年のときだった。
名前も顔も出さない。フォローしてくるのは、同じように家族の愚痴を書く母親たちで、最後には1,200人くらいになった。

書いていたのは、ほとんど夫と義母のことだ。それから、息子のこと。
「塾に年60万払って、模試はE判定。私の老後を返してほしい」
「あの子は夫に似た。何を聞いても『別に』しか言わない」
「産まなきゃよかった、とまでは言わない。でも、産む前の自分に一回会いたい」
最後のには、いいねが800ついた。「わかる」「泣いた」と返信が並んだ。家では誰にも言えないことを、知らない1,200人がわかってくれた。息子の弁当の写真を載せて、「今日も茶色」と書いた日もある。

息子が高校1年の春、フォロワーが1人増えた。
プロフィールは空っぽで、投稿はゼロ。アイコンは、青いスパイクの写真だった。
息子はサッカー部で、その年の誕生日に、私は青いスパイクを買っていた。
画面を見たまま、しばらく動けなかった。
「……いや。青いスパイクなんて、部活の子はみんな履いてる」
ブロックはしなかった。鍵もかけなかった。そうしたら、何かを認めることになる気がした。
それから2年、私は書き続けた。

息子は大阪の大学に受かった。
引っ越しの朝、段ボールを車に積み終えて、玄関で「じゃあ」と言ったあと、息子が振り返った。
「あのアカウント、もう好きに書いていいよ。俺、フォロー外したから」
怒った声ではなかった。天気の話をするような声だった。
私は何か言おうとして、何も出てこなかった。
息子は「最初は、母さんが何考えてるか知りたかっただけ」と言って、玄関を出ていった。

その夜、アカウントを消した。
消す前に、フォロワーの一覧を最後まで見た。青いスパイクは、もういなかった。
2年分の投稿は、読み返せなかった。息子は、全部読んでいたはずだ。

あれから3年たつ。息子は正月も帰ってこない。夫には、理由を話していない。
毎月、仕送りの日に、LINEを1行だけ送っている。「元気?」
既読はつく。
それを確かめて、今月もスマホを伏せる。
この失敗からの教訓

匿名の1,200人の「わかる」より、読まれたくなかった1人のほうが、ずっと重かった。

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