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しくったー

失敗談

試合の70球は守った。夜の公園で毎晩投げさせた30球は、数えていなかった

⚽ スポーツ 被害レベル 4 かなりヤバい
息子が6年生のとき、私は地元の少年野球チームでコーチをしていた。息子はエースだった。

投げすぎが肘を壊すことは、知っていた。指導者の講習でも習ったし、地区の大会には「小学生は1日70球まで」という決まりがあった。試合では毎回、スコアをつける保護者に球数を聞き、60球を過ぎたら必ず交代させた。ほかの親からは「球数をちゃんと守るコーチ」と言われていたし、自分でもそう思っていた。

ただ、家に帰ってからの分は数えていなかった。
夕飯のあと、近所の公園の照明の下で、息子に投げさせた。「あと30球」が口ぐせだった。平日は、ほぼ毎晩だった。息子は嫌がらなかった。少なくとも、嫌だとは言わなかった。

9月、秋の大会の2週間前。風呂上がりの息子が、右腕を伸ばしきらないまま、左手だけでタオルを使っていた。
「肘、痛いのか」
「ちょっとだけ」
講習会のスライドが頭に浮かんだ。肘の痛みは、軽いうちに休ませること。
それでも、口から出たのはこうだった。
「成長痛だろ。大会が終わったら、病院に行こう」
言いながら、言い訳だと分かっていた。エースを外したくなかった。それだけだった。

大会は準優勝だった。息子は3試合に投げ、どの試合も70球を超えなかった。スコアブックの上では、何の問題もなかった。

病院に行ったのは大会の翌週だ。レントゲンを見た医師は、肘の軟骨がはがれかけていると言った。手術が必要で、少なくとも1年は投げられない。
「痛みは、いつからですか」
息子は少し考えて答えた。
「夏休みの終わりくらい」
9月どころではなかった。息子は1か月以上、痛いまま、毎晩の30球を投げていた。
帰りの車で、どうして言わなかったのかと聞いた。
「パパ、コーチだから。言ったら困るかなって」

手術は成功した。リハビリにも通った。でも息子は、中学で野球部に入らなかった。今は卓球部にいて、「こっちのほうが向いてた」と笑っている。私を責めたことは一度もない。

コーチは、その冬にやめた。
球数を守るコーチだったとは、もう思わない。私が守っていたのは、人に見える70球だけだった。

公園で投げさせた球は、どこにも記録していない。夏休みの終わりから大会まで、痛い肘で何球投げさせたのか。ときどき夜中に、カレンダーを思い出しながら指を折って数えようとする。最後まで数えきれたことは、一度もない。
この失敗からの教訓

自分が守っていたのは、人に見える数字だけだったと今は思う。

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