しくったー編集部
@henshubu
娘の婚約者を興信所で調べた。何も出なかった報告書を、娘が見つけた
👨👩👧 家族・子育て
被害レベル 5
人生レベル
娘の美咲が「会ってほしい人がいる」と言ったのは、3年前の春だった。相手は32歳で、設計事務所に勤めている。一度うちに来て、手土産の最中を置いて、礼儀正しく帰っていった。いい人だと思った。
それでも、頭から離れないことがあった。私は25で結婚して、半年後に夫の実家に800万円の借金があると知った。義父が亡くなるまで、夫と2人で12年かけて返した。誰も教えてくれなかった。結婚前に調べる方法はあったのに、と何度も思った。
だから娘には同じ思いをさせたくなかった。駅前の興信所に行って、28万円払った。夫には言わなかった。言えば止められると分かっていたから。
3週間後に届いた報告書は、A4で14枚。借金なし。実家は地方の米農家で、兄が継いでいる。近所の評判は「おとなしい次男さん」。何も出なかった。私は台所で一人、ほっとして泣いた。
その報告書を、捨てられなかった。シュレッダーの前で手が止まった。28万円の紙だ。それに、もし何か起きたとき「ちゃんと調べてあった」と言えるものが欲しかった。
寝室の鏡台の、2段目の引き出しに入れた。保険証券と年金の書類が入っている段だ。
「美咲がここを開けることなんて、ない」
そう思って、閉めた。
結婚式の2か月前、美咲が実家に泊まりに来た。式で読む手紙のために、私の若いころの写真を探したいと言った。私はパートで家にいなかった。
古いアルバムは、鏡台の2段目にあった。報告書の下に。
夜、帰ると、報告書がダイニングテーブルの上に置いてあった。美咲は向かいに座っていた。
「これ、なに」
私は借金の話をした。あなたに同じ思いをさせたくなかった、と言った。何も出なかったんだからいいじゃない、とも言った。言いながら、最後の一言がいちばん駄目だと分かった。
美咲は「何も出なかったのは、あの人がそういう人だからだよ」と言って、その晩のうちに帰った。報告書は持っていった。
式には呼ばれた。親族席の端で、美咲とは一度も目が合わなかった。花嫁の手紙は「お父さんへ」の一通だけだった。私の若いころの写真は、スライドに1枚も出なかった。
去年、孫が生まれた。会えたのは2回。2回とも、夫が一人で行くと言った日に、私が頼み込んでついて行った。美咲は孫を抱かせてくれた。帰り際に「また来てね」とは言わなかった。
彼には一度、頭を下げた。「お母さんの気持ちは分かります」と言ってくれた。それがいちばんこたえた。
28万円で、娘の相手に何もないことを確かめた。代わりに、母親が何をする人なのかを、娘に確かめさせてしまった。
孫の写真は、夫のスマホで見せてもらっている。
それでも、頭から離れないことがあった。私は25で結婚して、半年後に夫の実家に800万円の借金があると知った。義父が亡くなるまで、夫と2人で12年かけて返した。誰も教えてくれなかった。結婚前に調べる方法はあったのに、と何度も思った。
だから娘には同じ思いをさせたくなかった。駅前の興信所に行って、28万円払った。夫には言わなかった。言えば止められると分かっていたから。
3週間後に届いた報告書は、A4で14枚。借金なし。実家は地方の米農家で、兄が継いでいる。近所の評判は「おとなしい次男さん」。何も出なかった。私は台所で一人、ほっとして泣いた。
その報告書を、捨てられなかった。シュレッダーの前で手が止まった。28万円の紙だ。それに、もし何か起きたとき「ちゃんと調べてあった」と言えるものが欲しかった。
寝室の鏡台の、2段目の引き出しに入れた。保険証券と年金の書類が入っている段だ。
「美咲がここを開けることなんて、ない」
そう思って、閉めた。
結婚式の2か月前、美咲が実家に泊まりに来た。式で読む手紙のために、私の若いころの写真を探したいと言った。私はパートで家にいなかった。
古いアルバムは、鏡台の2段目にあった。報告書の下に。
夜、帰ると、報告書がダイニングテーブルの上に置いてあった。美咲は向かいに座っていた。
「これ、なに」
私は借金の話をした。あなたに同じ思いをさせたくなかった、と言った。何も出なかったんだからいいじゃない、とも言った。言いながら、最後の一言がいちばん駄目だと分かった。
美咲は「何も出なかったのは、あの人がそういう人だからだよ」と言って、その晩のうちに帰った。報告書は持っていった。
式には呼ばれた。親族席の端で、美咲とは一度も目が合わなかった。花嫁の手紙は「お父さんへ」の一通だけだった。私の若いころの写真は、スライドに1枚も出なかった。
去年、孫が生まれた。会えたのは2回。2回とも、夫が一人で行くと言った日に、私が頼み込んでついて行った。美咲は孫を抱かせてくれた。帰り際に「また来てね」とは言わなかった。
彼には一度、頭を下げた。「お母さんの気持ちは分かります」と言ってくれた。それがいちばんこたえた。
28万円で、娘の相手に何もないことを確かめた。代わりに、母親が何をする人なのかを、娘に確かめさせてしまった。
孫の写真は、夫のスマホで見せてもらっている。
この失敗からの教訓
心配だったのは本当だ。でも、心配を理由にしたことは、全部自分のためだった気がしている。
閲覧数26
反応 0 件
0
コメント 0
まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。